ウーツー(CDレビューア)

ヤフーやグーグルで記事が検索できない方は、にほんブログ村から検索してみてください。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書き下ろし「こんなはずではなかった...」結納の朝、新婦の夢の中に現われた悪夢-人気女子アナ、うわき男とめちゃくちゃの生活で、成功の頂点から奈落の底へ

 夜のテレビのニュース番組で女性アシスタントを務める「もよ」は、有名な歌舞伎役者「男優郎」との結納をするために、会場の控え室で出番の呼び出しが来るのを待っていた。

 もよは夢見心地だった。今日のクリスマスイブにはあこがれの男優郎との結納を果たし、ついには婚約を結ぶ。夏には5千万円もの費用をかけて、ホテルの大広間で千人もの来賓を招き、豪華なウエディングドレスを披露し、ひときわ輝く存在となり、テレビ中継を通じて全女性の注目のまととなる...

 もよはそんな自分を思い描きながら、いつのまにか控え室でうとうとしながら、眠りに落ちていた。

 ・・・

 男優朗の妻として、もよは歌舞伎座「羽田屋」をきりもりしていたが、金策に困っていた。派手な夜遊びを夜毎繰り返す夫や役者の遊び先からは次から次へと請求書が届けられていた。しかし、折からの景気低迷で観客は減る一方で公演の収入は伸びず、タニマチが寄付してくれる金も減り、いつしかタニマチもポツリポツリと消えていく一方だった。

 借金の催促は日増しに増していったが、夜遊びを控えて倹約するよう夫の男優郎に迫っても、夫は耳を貸してくれなかった。もよは自分がなんとか都合しようとしたがあてがなかった。「羽田屋」に越しいれしてばかりのころのもよから明るい表情は消え、いつしか厳しい顔つきからほおがゆるむことはなくなり、今では心配のあまり眠れぬ夜が続いていった。

 そんなもよをよそに男優郎は夜ごと高級クラブを親しい歌舞伎俳優と飲み歩き酔った勢いで次から次へと女を変える毎日、男優郎が飲んだ高級クラブからの請求書が連日もよのところに届き、男優郎が手をつけた女たちが入れ替わり立ち代りで、もよにいやがらせの電話をかけたり、文句を言いに羽田屋に尋ねたりしていた。

 もよは男優郎に女遊びをやめるように言ったが、男優郎は遊んだ女の香水のにおいをぷんぷんさせながら、「女遊びは芸のこやしだ」と言ってとりあってくれず、それどころか、もよに言われた腹いせにか、女遊びは日増しにひどくなる一方だった。ついには、そのことを口にすると、男優郎はもよに殴りかかってくるようになり、もよはなま傷が絶えなかった。そして、増え続ける請求書の数々...

 ・・・

 羽田屋は先代のあるじが、義理の兄のために支払った20億円の借金を映画会社の「爆竹」が建替えてくれたが、羽田屋は今でも公演収入の20%を「爆竹」へ借金返済のために充てていたが、まだ5億円の借金が残っていた。しかし、つい何年か前も男優朗の襲名費用のために3億円もかかってしまい、なかなか借金の返済が進まない状況だった。

 借金を抱えた羽田屋に従業員を派遣している爆竹の社長・迫撃は、男優朗の豪華な結婚の披露宴を行い、テレビ中継をすれば、その収入で、羽田屋に貸して残っている5億円の他にも収入を上げることができのではないかとひらめいた。爆竹の迫撃もまた長引く景気停滞で売上が下がる一方で、現状を打開する妙手を探っていたのだ。

 しかし、披露宴を盛り上げるためには、知名度が高く知的で清楚な花嫁が必要だ。それで、迫撃が花嫁探しを部下に命じたところ、もよに白羽の矢が立ったのだ。もよを男優郎の花嫁としたい迫撃は、もよを番組に起用しているテレビ局の社長・氏長に頼み込んだ。

 「どうか羽田屋の若いのと、おたくの娘を会わせてくれないか」

お互いに持ちつ持たれつの氏長は簡単に承諾し、もよが担当している番組で、もよと男優郎を対談で引き合わせることにし、迫撃は羽田屋に指示して男優郎が出演している舞台にもよを招待するように、男優朗に伝えた。

 対談が終わった後、取材で羽田屋の楽屋を訪れたもよに、男優郎は、「いつでも遊びにきなさい」と特別扱いしてくれたのだ。思わず気をよくしたもよに、さらに番組のプロデューサーから歌舞伎の連続取材を担当する話がもちかけられ、もよは歌舞伎のことを勉強するようになり、男優朗に誘われるままに舞台に足を運び、すっかり歌舞伎のとりこになってしまった。

 歌舞伎の名門であることを利用して、何十人もの女性と関係をもち、酔えばまわりの女をかたっぱしから口説く毎日の男優郎であったが、男優朗の口説きの前に、もよもすっかり心を奪われてしまったのだった。しかし、それは爆竹の迫撃が羽田屋の借金を帳消しにしてやるかわりに、男優郎に命じた芝居にすぎなかったのだが...

 ついに心を奪われたもよが男優朗のプロポーズを受け入れたのは、出会ってまもないことであった。

 ・・・
 
 その後、五ヶ月が経ち、爆竹の迫撃はスポーツ新聞社に事実をもらして、もよと男優朗の結婚を前提とした真剣交際の発表が新聞の1面に載り、さらに氏長がもよに交際を認めるニュースを語らせるという新聞、テレビという公器を私物化して大芝居をうち、世間をあっといわせたものの話題が持ったのは1、2日で、芝居は看板倒れに終わった。

 世間の反応は冷ややかだった。もともと歌舞伎は人気低迷を続けており、歌舞伎自体の認知度がさほどなかったのに加え、もよの名前は思ったより世間に知られていなかった。

 なにより世間をしらけさせたのは、男優朗の女ぐせの悪さが世間に知れ渡っていたことだ。真剣交際の発表の日、テレビのレポーターが「これで年貢の納めどきですか?」と聞いたとき、「ええ」と答えた男優郎をテレビを観ていた誰もにしらけた空気が流れた。

 狼少年となった男優朗のいつものでまかせに、すぐに世間の空気が冷めてしまっていて、今では結婚する前から、いつどのように男優朗ともよが破局するかの話題に関心が移り、返ってそのほうが盛り上がるしまつだった。

 かくして、迫撃のもくろみは最初から計算が狂っていった。

 清楚な魅力でお茶の間を魅了していたもよであったが、男優朗の女ぐせ、酒ぐせをはじめとする、あまりにも悪い評判はもよのイメージにもマイナスに働き、評判は落ちる一方で、それまでついていてくれたコマーシャルのスポンサーもひとつ、ふたつと離れていった。

 男優朗ともよの婚姻に加担した氏長のテレビ局も、もよを番組に起用することを控えることを、もよの所属するタレント事務所に伝えていた。清楚でちょっとした美人であるということ以外、さしてとりえのなかったもよに、悪評がついた今となっては、もうどうしようもなかった。

 ・・・

 「もよさん、男優郎さんの飲み代のつけ、いつ払ってくれますねん?」

 いつも請求書を持ってくる高級クラブのママが、今日はいつになく険しい表情でどなった。

 しかし、タニマチすじを回って頼んでみたものの金策がつきて、男優朗の飲み代を払えるあてはなかった。

 ある日、困り果てて、酒を慎むよう夫に言ったもよに、男優郎は不機嫌に言った。

 「あまえのおやじに貸してもらえばいいだろ!」

 男優郎は定年後もまだ銀行に努めているもよの父に金の無心をしろというのだ。実のところ、男優朗もタニマチも、もよの父親が大手銀行の銀行員であることをあてにしていたのだ。

 ・・・

 結婚するまで、もよは堅実な両親のもとで姉妹ふたりで仲良く育った。近所でも評判の家族だった。

 しかし、この結婚の後、男優郎はたびたび大手銀行に勤めるもよの父に、もよを通じてカネの無心をしたり、羽田屋の番頭がなにかにつけ家族のことに干渉し、羽田屋の嫁の家族にふさわしい行動をとるように家族に指図したりしたので、それが原因で一家がバラバラになっていった。

 「そんなはずじゃなかったのに...わたしのせいで...」

 もよは悔やんだ。しかし、いくら悔やんでもどうにもならなかった。もよの頭の中は真っ暗になっていった。

 ・・・

 「バタンッ!」

 結納の会場の控え室の戸がしまる音が聞こえた。もよはうとうと寝入っていたことに気付いた。

 「もよさん、出番ですよ。」

 羽田屋の番頭が結納の席にもよが出るように促した。

 正気に戻ったもよはふと思った。

 「結納しない方がよかったのかしら...」

 羽田屋の番頭はもよの手を引いたが、もよの足は凍りついたように動かなかった。

 もよはつぶやいた。
 
 「こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったのに...」










スポンサーサイト

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。